お使いのブラウザはサポート対象外です。推奨のブラウザをご利用ください。

KCON WALKER

コンクリートの起源から構造物築造の変遷 Vol.09

こんにちは!

弊社の顧問執筆によるコンクリートについてのいろいろなお話が新しくスタートします。
おもしろいのでぜひご覧ください。

 

27、関門鉄道トンネル
関門海峡を横断する陸上交通機関では最も古い存在であると同時に、世界初の海底鉄道トンネル(水底トンネルは前例あり)でもある。
写真-80は関門トンネルを通過する最初の営業列車に出発合図を送る当時の三好門司駅長である。周囲に見える×印は軍の検閲による修正箇所の指示で、国防上重要と思われる施設や設備は、大概が発表時には消去または改竄されていた。
明治29年(1896)年 全国商業会議所連合会が関門海峡に鉄道隧道を建設する案を帝国議会に誓願。
明治44年(1911)年 鉄道院総裁の後藤新平、土木技師の田邉朔郎に命じて関門海峡両岸の連絡手段を検討させる。田邉は海底隧道によって連絡可能と結論を出す。橋梁案は艦砲射撃への脆弱さから除外された。
昭和11 (1936)年 鉄道トンネルの建設を決定。
昭和11(1936)年9月19日 起工。
昭和14(1939)年4月19日先通導坑(工事促進のため先に掘削された小トンネル)貫通。
戦時体制下での輸送力増強を目的に突貫工事で建設された。写真-81に示す当時最先端のシールド工法を駆使し、多量の湧水に対抗する難工事であった。トンネルと海底との土被りが小さかったため、坑内で頭上を通過する船舶のスクリュー音が聞こえたり、海底に坑内の空気が漏れ出したりしたこともあり、このため超小型潜水艇による調査まで行われた。


hasegawa90.jpg
写真-80 軍事態勢下
×印は軍の検閲による修正箇所


hasegawa91.jpg
写真-81 シールドマシン


昭和16(1941)年7月 下り本線貫通。
昭和17(1942)年6月11日 下り本線で試運転開始。
昭和17(1942)年6月13日 下り本線で試験運行を兼ねて貨物列車を運行開始。
昭和17(1942)年7月1日 下り本線で貨物列車を正式に運転開始。
昭和19(1944)年9月9日 上り本線完成、複線化
琵琶湖疏水はじめ多くの偉業を成し遂げた田辺朔郎(1861/12/2~1944/9/5)は関門鉄道トンネル複線化の4日前に亡くなった。83歳であった。


28、コンクリート船
1941年、国家総動員法に基づく金属類回収令が出された。窮余の策としてコンクリート船建造が浮上し、1941年初頭に舞鶴海軍工廠においてコンクリート船の基礎研究が始まった。武智丸は船体長60m、幅10m、高さ6mの小型貨物船でコンクリート船としては計10隻建造された。
 コンクリートの設計基準強度は30N/mm2、配合はC:S:G=1:1.5:3の富配合コンクリートが採用された。
 コンクリートは手練りで、セメントと砂を空練りした後、水を加えた。スランプは8cm程度、W/Cは40~45%で粗骨材最大寸法は15mmであった。
打込み高さは1.0~1.5mで6層に分けて施工された。鉄筋は直径9~25mm、引張強度は340~530N/mm2で、かぶりは25mmである。
継手は溶接、水密性確保のために船殻外面の喫水線以下を薄鉄板で被覆している。又、薄鉄板の代わりにアスファルトを塗布する場合もあったとのこと。  
コンクリート船は質量が大きいために航海速度が遅く、航海性能が劣るために敬遠されたようだ。自走型貨物船武智丸4隻のうち2隻が昭和19(1944)年から広島県安浦漁港の防波堤となっている。 防波堤に沈設された武智丸(写真-82、83)は船体の1/3が浸水しており甲板や2階付近を対象とした調査ではコンクリートのはく落は認められず、内部鉄筋の腐食による錆汁や盤ぶくれの箇所も見当たらなかったとのことである。


hasegawa92.jpg
写真-82 防波堤になっている武智丸


hasegawa93.jpg
写真-83 武智丸


中性化深さは海水に接する外面は数mm程度で、内側は20mm程度であった。
 65年経過時点で顕著な劣化は進行していないとのことで、W/Cが小さく入念な施工によるものと思われる。(舞鶴高専 岡本寛昭教授資料より)
海洋構造物においてコンクリート内部への塩化物の侵入は鉄筋の発せい(錆)、アルカリシリカ反応、硫酸塩によるエトリンガイトの発生へと繋がり、大きな問題となる。
海洋構造物に混合セメントを使用するのは混合セメントに含まれるCa(OH)2が少ないからである。海水中のMgSO4やMgCl2はCaCl2(エンカル)やCaSO4(石膏)に変化し、また、C3A(アルミン酸三カルシウム)とSO3(無水硫酸or三酸化硫黄)が反応することにより膨張性のエトリンガイトが生成される。硫黄が噴出している場所ではコンクリート構造物がエトリンガイトにより膨張破壊を起こしている。
しかし、混合セメントは組織体が緻密な構造となり、組織体内の水分移動が抑制され、相対湿度が80%以下であればアルカリシリカ反応は生じにくいといわれている。また、塩化物イオンの浸透に関しては高炉C種を使用すると細孔容積も図-5から少なくなり、緻密な構造となることから図-6に示すように塩化物イオンの侵入は抑えられる結果となる。
(セメント産業における非エネルギー起源二酸化炭素対策に関する調査より)


hasegawa94.jpg
図-5 全細孔容積の変化


hasegawa95.jpg
図-6 高炉スラグコンクリート供試体と普通セメントコンクリート供試体における塩分分布のモデル図


参考文献
コンクリート材料工法ハンドブック
セメント産業における非エネルギー起源二酸化炭素対策に関する調査
コンクリートの長期耐久性・小樽港100年耐久性試験に学ぶ
 土木学会・第一大戸川橋の概要335委員会成果報告書
 雑誌:コンクリート工学
 神戸市水道局パンフレット
 湊川隧道保存友の会パンフレット
 建設業界⑩⑪ volume 52、2003
 土木学会誌 1992年11月号 北の国からの大いなる遺産
 その他インターネットより